京都文化博物館で「みんなのミュシャ」展が開催中。展示はマンガとの関連がメインで、スラヴ叙事詩とのつながりはサワリ程度でしたが、イブニングトーク+シャンパンとショコラのお楽しみ付きで楽しい鑑賞となりました。
今回は、アール・ヌーヴォーの代名詞でもあるミュシャの作品と影響力を俯瞰しての感想をレポートします。
「みんなのミュシャ」展でマンガの源流にふれる
時代や地域を越えるミュシャの魅力
ミュシャの良く知られた作風は、中央に大きく配した女性を取り囲むように花や文様がちりばめられたものでしょう。
業界関係者以外には無名に近かったミュシャが、いきなり脚光を浴びるきっかけとなった「ジスモンダ」においても、すでにその様式美を見ることができます。
見るものを虜にしたミュシャの様式美は、明治期の日本にまで伝わりましたが、東西冷戦の影響で一時埋もれてしまいました。
ところがミュシャの作品は、死後四半世紀を経た60年代以降ポップカルチャーの担い手たちを触発し、日本のマンガ家やイラストレーターにも大きな影響を与えるに至っています。
浮世絵をほうふつとさせるミュシャの線
ミュシャが活躍し始めたころ、すでにジャポニズムブームは巻き起こっていました。
日本の七宝花瓶などミュシャのコレクションを集めた「美の聖堂」は、インスピレーションの源泉になっていたようです。
浮世絵を特集した雑誌も購読しており、挿絵画家だったことも相まって、ミュシャの線はますます完成度の高いものとなっていきました。
ポスターと浮世絵は、印刷によって大量生産され広く頒布されるという点で似通っていて、当時の庶民たちは質の高いアートを気軽に楽しめるようになっていたのです。
イブニングトークでミュシャの幅と深さを知る
イブニングトークはシャンパンとショコラつき
今回筆者は、イブニングトーク+シャンパンとショコラのお楽しみ付きチケットで展示を鑑賞しました。
17時から「モエ・エ・シャンドン」のシャンパンと「ベルアメール」のショコラが供され、学芸員の畑智子女史によるレクチャーを受けます。
続いて閉館後の会場を貸切って、じっくり作品を鑑賞できるという企画でしたが、チェコに行ったことがあるという、熱心なミュシャファンもおられました。
ミュシャが「モエ・エ・シャンドン」社のポスターを制作していた関係でシャンパンが供されたようですが、残念ながら今回そのポスターは展示されていません。
ミュシャの超大作「スラヴ叙事詩」につながるお話も
今回の展示ではミュシャのグラフィックデザイナーとしての側面がメインとなっていますが、ミュシャの本質は総合芸術家でした。
挿絵やポスターだけでなく、舞台や衣装のデザイン、教会の装飾画やステンドグラスなども手掛けていたのです。
ミュシャは、クライアントや大衆に受け入れられる作品を世に送り出していたからこそ売れっ子だったわけです。
けれども生活の糧としての仕事においてもミュシャは、精神性や宗教性を視覚的なメッセージによって訴えていたようです。
ミュシャは信仰深いナショナリスト
ミュシャは8歳で聖歌隊に加わり「磔刑図」を描くような信仰深い子供でしたが、ポスターに描かれた天使のような女性やアラベスク文様にも、宗教的メッセージがあふれています。
また、ミュシャはスラヴ民族が自身の歴史・文化や精神的価値に目覚めるような作品を作りたいと願っていて、展示では市長ホールの装飾画のための習作でその一部を見ることができます。
そんなミュシャの悲願が結晶となったのが、晩年の16年間を捧げた「スラヴ叙事詩」でした。ところが、この作品を見たナチスは、ミュシャを危険視して連行してしまうのです。
これは、「スラヴ叙事詩」が愛国心を喚起する力に満ちあふれたものであることがうかがえるエピソードといえます。
畑智子女史がチェコで取材してきた映像や、今回展示されていないミュシャの油彩画などの紹介を通して、これまでより深くミュシャを知ることができました。
「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」の詳細とアクセス
「みんなのミュシャ」展の詳細
- 会期:
2019年10月12日(土)~2020年1月13日(月・祝) - 休館日:
月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)・12月28日(土)〜2020年1月3日(金) - 開館時間:
10:00~18:00 ※金曜日は19:30まで(入室はそれぞれ30分前まで) - 会場:
京都文化博物館4・3階展示室 - 観覧料:
一般 1,500円・大高生1,200円・中小生500円(学生は要証明)
※未就学児は無料。(要保護者同伴)
※障害者手帳などをご提示の方と付き添い1名までは無料
なお「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」は来年以降、札幌・名古屋・静岡・松本を巡回する予定です。
「みんなのミュシャ」展の割引
京都国際マンガミュージアムと相互割引が実施されており、入場券もしくは半券の提示で当日料金から200円が割引かれます。
また、ミュージアムぐるっとパス・関西の提示で一般団体割引料金扱いとなり、200円引きの1,300円で観覧できます。
「みんなのミュシャ」展のグッズ
クリアファイルやポストカード、iPhoneケースなどの定番に加えて、テディベアや複製画などの高額商品も販売されていて、グッズ売り場は貸切にもかかわらずにぎわっていました。
筆者が購入したペコちゃんのサブレは、「缶がかわいすぎる~」と注目の的でした。
「みんなのミュシャ」展の混雑状況
今回、筆者がゆっくりと展示を観覧できたのは貸切の賜物でしょう。混雑状況は土・日・祝日より平日のほうが穏やかですが、団体客に出くわすと大変かもしれません。
とはいえ団体客の滞在時間は比較的短めなので、ショップや飲食店で時間をつぶしてやり過ごすのも一法でしょう。
京都文化博物館へのアクセス
- 地下鉄「烏丸御池駅」下車5番出口から三条通りを東へ徒歩3分
- 阪急「烏丸駅」下車16番出口から高倉通りを北へ徒歩7分
- 京阪「三条駅」下車6番出口から三条通りを西へ徒歩15分
- 市バス「堺町御池」下車 徒歩2分
京都文化博物館のランチ・食事
京都文化博物館の1階には飲食店やカフェがありますが、ランチタイムには多くの人が並んで待っているので、時間をずらしての利用をおすすめします。
今回は鑑賞前に「前田珈琲 文博店」で「パンプキンタルトとスペシャルブレンド・龍之助のセット」。
鑑賞の後は、昭和4年創業のそば店「有喜屋」で「秋鱧と舞茸の天ぷら盛り合わせ御膳」をいただきました。
私もミュシャに魅せられた「みんな」のひとり
「あなたは何者か」と問い掛けるミュシャの作品
天使のように可憐な女性をモチーフにした作品が多かった「みんなのミュシャ」展ですが、作品から漂う精神性と宗教性に加え、作中の女性がこちらを見つめる視線からも、自分は何者かを問いかけられているように感じました。
時代や地域を越えて多くの人の心をとらえてきたミュシャの作品はグローバルなようでありながら、実はナショナリズムに裏打ちされたものです。
近年、ナショナリズムは偏狭の代名詞のように扱われがちですが、ルーツを持っているという安定感がみんなの共感を呼んでいるのかも知れません。
今日のボタモチ
今日のボタモチは【民族】です。
国と民族がほぼ同一である日本人にとって、自らが大和民族であることを意識するのは、スポーツの国際試合を観戦するときくらいかもしれません。今後もこんな呑気な日々が続けばよいのですが…。
※今日はボタモチ、1個追加!
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