先日、加古川の合名会社岡田本家で日本酒の仕込み見学会が開催されました。運良く抽選に当選しワクワクしながら当日を迎え現地に到着したところ、なぜかちびっ子がいっぱい。
これまで参加した酒蔵の見学会などのイベント会場とはまったく異なる雰囲気にびっくりしましたが、これには大きな理由がありました。今回は、まさしく地酒と呼ぶにふさわしい「神吉」の仕込み見学会をレポートします。
岡田本家は加古川市唯一の造り酒屋
岡田本家の酒作りは地元密着型
合名会社岡田本家は創業1874年(明治7年)の造り酒屋です。昭和40年代頃には加古川市内に10軒以上もあった造り酒屋ですが、現在では岡田本家のみとなっています。
地産地消を目指し地域に根ざした岡田本家の酒作りは、後ほどレポートする「加古川夢錦新地酒プロジェクト」への取り組みや、地元の農業高校とコラボした純米酒「県農 花てがみ」にも表れています。
岡田本家の基本は加古川の伏流水と兵庫県産の米を使った手作業での酒造りで、平成24年からは米の一部の自社栽培もスタートしています。
岡田本家を代表する銘柄「盛典(せいてん)」
「盛典」は岡田本家の銘柄酒です。筆者は今年の2月まで加古川に造り酒屋があることを知りませんでしたが、姫路のおでん屋さんで隣に座ったお兄さんに「盛典」を強く勧められ、岡田本家を訪ねることになったのです。
雰囲気のあるこじんまりした直売所は、大正初期から建つ米蔵を再利用したもので、もろみを搾る酒槽(さかぶね)をカウンターに転用しています。
「盛典」は明治維新の御大典にちなんで名付けられ、買い求めた「盛典・特別純米生原酒」は吟醸酒を思わせるフルーティーな味わいでした。
岡田本家の「神吉」とは
「神吉」は地元手作りの地酒
今回の仕込み見学会で仕込まれた「神吉」は、地元の農作物を使った地域振興の取り組みである「加古川夢錦新地酒プロジェクト」から誕生したお酒で、今年で3年目の仕込みとなります。
使用する酒米の「兵庫夢錦」は西播磨地域に適した酒造好適米で、マメ科植物の「ヘアリーベッチ」を活用して無化学肥料・減農薬で栽培されています。栽培地は加古川市西神吉町宮前、加古川市にお住まいの一般の方たちも田植えや稲刈りに参加されました。
地元産の酒米と加古川の伏流水を使って、加古川の造り酒屋で醸す「神吉」は、地酒オブ地酒と呼べるものでしょう。
兵庫夢錦と山田錦の違い
酒米といえば山田錦が超有名で、兵庫県で作られている酒米の9割近くが山田錦です。また、全国で作られている山田錦の6割近くが兵庫県産となっています。
山田錦はお酒になるために生まれたお米で、加工が行いやすいうえできあがったお酒は高値で売れるという、大変重宝な酒米なのです。けれども栽培適地は、三木市・加東市付近など夏季の気温の日較差が10℃以上あるところとなっています。
そこで、加古川近辺が栽培適地となっている兵庫夢錦で加古川の地酒を作る取り組みが、「加古川夢錦新地酒プロジェクト」として始まったのです。
ちびっ子がいっぱい来ている理由とは
30名弱の参加者の半数近くが、ちびっ子たちでした。日本酒の仕込み見学会に、なぜかちびっ子がこんなに?と不思議に思い、プロジェクトを担当されている農林水産課の職員さんにお尋ねしたところ、なぞが解けました。
集まったちびっ子たちは、兵庫夢錦の田植えから「加古川夢錦新地酒プロジェクト」に参加していて、自分たちが植えて刈り取ったお米がお酒になることを楽しみに、家族そろって今日の仕込み会に参加しているということだったのです。
▼磨かれた酒米を熱心に観察するちびっ子たち
岡田本家で日本酒の仕込み現場を「体感」
これまでガラス越しに仕込みを見学したり、映像で仕込み風景を見たりしたことはありましたが、今回の仕込み見学会では間近に仕込みを見ることができました。仕込み蔵にはほのかにいい香りが立ち上り、いよいよ気分は盛り上がります。
▼仕込み後7日のぷくぷくと泡立ち発酵が進む醪(もろみ)
蒸し上がった酒米「兵庫夢錦」を冷却器に入れて冷まし、三段仕込みの最終段階としてタンクに投入するのですが、酒米の蒸し加減を見るために熱々の酒米を手で餅状にこねてチェックします。
▼力を込めて熱いうちにこねあげる
▼ちびっ子たちも蒸し加減が気になる様子
▼蒸し上がった酒米は冷却器へ
▼タンクへ投入される酒米
続いて酒母作りのレクチャー。麹と水が入ったタンクに醸造用乳酸と酵母を加え、さらに蒸して冷ました酒米を加えたら、2週間ほどで酒母が完成します。
▼杜氏の方の分かりやすいレクチャー
▼アンプルに入った協会酵母
搾りの工程も見学できました。タンクから吸い上げられた醪が、自動圧搾ろ過機を通って酒粕とお酒に漉し分けられていきます。
▼タンクから醪を汲み出す
▼これが自動圧搾ろ過機
▼これぞまさしく「一番搾り」
搾りたての原酒は、実にさわやかでフルーティーな味わい。ちびっ子たちには、兵庫夢錦と麹だけで作られた甘酒が振る舞われました。
見学会終了後、直売所でお酒を購入。「神吉」は、来月21日(金)に行われる「地酒『神吉』新種お披露目会」で、できたてほやほやを購入することにしました。
お披露目会では「神吉」の試飲・販売のほか、野菜や新米の販売、加古川の新ご当地メニュー「恵幸川鍋(えこがわなべ)」の試食が行われる予定です。「恵幸川鍋」は、地元老舗店の味噌と岡田本家の酒粕を使った鍋料理で、お披露目会では「神吉」の酒粕が使われます。
【地酒『神吉』新酒お披露目会】
- 日時:12月21日(金)17:00~19:00
- 場所:「びぃぷらす」BAN-BANコミュニティスペース(加古川駅前・寺家町商店街内)
楽しくて学びも多かった岡田本家の仕込み見学会
「神吉」は地酒のモデルかもしれない
世界的にも人気が高い山口県の「獺祭」で使用されている酒米は100%山田錦で、山田錦が酒米の王者であることは誰もが認めるところでしょう。
仕込み水と違って米は遠方から調達できるので、日本各地で山田錦を使ったお酒が作られています。けれども地酒にはよそでできた酒米ではなく、地元産のものを使ってほしい。
加古川で加古川の人たちが作った兵庫夢錦を、加古川唯一の造り酒屋が加古川の水で醸した「神吉」は、地酒のモデルと呼べるものだと思います。
今日のボタモチ
今日のボタモチは【地元】です。
中央集権が進み、地方の疲弊が叫ばれています。人々も地元を軽視しがちですが、「マイルドヤンキー」と呼ばれる地元志向の高い人たちの幸福度は比較的高いと言われており、日本の新保守層になりつつあるそうです。
※今日はボタモチ、2個追加!
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