文楽「仮名手本忠臣蔵」の五~七段目を見た感想!討ち入りも金次第?

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国立文楽劇場

国立文楽劇場35周年記念公演として、2019年は「仮名手本忠臣蔵」が3公演連続で全段上演されます。夏休み特別公演では五~七段目が上演され、討ち入りまでの手に汗握るやり取りをじっくり鑑賞できました。

今回は、補助席が設けられるほどの人気だった五~七段目を観た感想です。

文楽「仮名手本忠臣蔵」の五~七段目とは

おかると由良助

おかる勘平は架空の人物

播州人である筆者にとって、「忠臣蔵」はとてもなじみ深い物語です。吉良上野介のコンババぶりや浪士面々の奮闘、そして雪の中の討ち入りなどをまるで見てきたかのように語る播州人は今なお存在しています。

ところが、文楽や歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」で人気が高いおかるは大石内蔵助の愛妾・於可留(おかる)、勘平は仇討ちと父親への孝行との板挟みで切腹した萱野三平(かやのさんぺい)から名前を借りただけという、架空の人物たちなのです。

五段目の「山崎街道・二つ玉」と六段目の「お軽身売り・勘平腹切」は、「仮名手本忠臣蔵」のなかでも抜群の人気を誇っており、おかる勘平を創作した作者の狙いは大当たりといったところでしょうか。

勘平は間の悪いだめんず

塩冶判官の切腹後、おかるの実家に身を寄せている勘平。討ち入りに加わりたいという勘平の願いを叶えるためにおかるは身売りし、それが元で義父は非業の死を遂げることになるという、かなり迷惑なだめんずです。

そもそもの発端は、勤務中におかると逢引していて主君の大事に不在だったという勘平の大チョンボで、同情の余地はなし。

また、自分が義父を殺してしまったと勘違いした原因が、猪と間違えて撃ち殺してしまった人物の懐から盗んだ財布だったというあたりも、自業自得といえなくもない。

結局、自責の念から切腹するに至るのですが、いまわの際に討ち入りへの参加が認められたことがせめてもの救いでしょうか。

ビフォー・アフターがすごいおかる

祇園に売られたおかるですが、ビフォー・アフターがすごい!六段目前半のかごで連れ去られるおかるから、七段目の柱に寄りかかった物憂げなおかるは、全く別人となっています。

筆者は女役の人形が好きで、その所作にいつも見とれているのですが、このおかるの色っぽさには参りました。浮世絵の題材にもよく取り上げられている、おかるが鏡越しに由良助の手紙を読む姿も実にあだっぽい…。

この後、父親と夫が死んでしまった話を兄から聞いて打ちひしがれる場面や、由良助の計らいで亡き夫に代わって塩冶家の元家老でありながら敵方についた裏切り者・斧九太夫(おのくだゆう)を打つ場面など、おかるの見せ場が続きます。

夫のためにと身を売ったことが、父と夫の死を招いてしまったというおかるの不幸に同情しつつ、本当に無欲で情の深い女性だったのかも…と思ったりもします。

茶屋遊びにふける由良助の真意

七段目では、祇園の一力茶屋で茶屋遊びにふける由良助が登場します。

由良助の茶屋遊びは、仇討ちを警戒する敵の目を欺くため、さらに味方から漏れることも警戒してのことで、秘密を隠し続けるのは苦労が多いことのようです。とはいえ敵や味方を欺くためだけなら、田舎にでも引っ込んで隠居を決めこめばすむでしょう。

由良助の派手な茶屋遊びは街の人たちも知るところとなるのですが、実は街の人たちも、いつ由良助たちがコトを起こすかと鵜の目鷹の目だったため、「討ち入りなんかやる気なし」と広くアピールする必要があったと思われます。

へべれけに酔っ払ったように見せかけながら、様子を探りに来た斧九太夫を相手に命日前夜にもかかわらず蛸を食べたり、錆びた刀をわざとみせたりしながらやり過ごします。そして最後には、亡き勘平に代わっておかるに斧九太夫を打たせるのです。

「忠臣蔵」にみる討ち入りも金次第?

赤裸々な大石内蔵助の「討ち入り決算帳」

浅野内匠頭の切腹から吉良邸討ち入りまで、2年近くの歳月が流れます。この期間の浪士たちの活動ぶりをうかがい知ることができる資料が、大石内蔵助がつけていた「預置候金銀請払帳」で、討ち入りのために使われたお金がしっかり記されています。

軍資金は約700両(今のお金だと約8,400万円)で、浅野内匠頭の未亡人である瑤泉院の化粧料(嫁入りの持参金)と赤穂藩の余剰金などで調達したものです。

旅費・滞在費や浪士たちへの生活補助費、亡君の供養費などのほか、御家再興の政治工作費にも充てられました。

人の移動にはお金が掛かる

メールやスカイプなどで簡単に連絡がとれる今とは違い、各地に潜伏して活動を続ける浪士たちが連絡を取り合うためには、人間が移動するしかありませんでした。そのため、旅費や滞在費に支出総額の1/3を超える大金が充てられたのです。

誰もが手軽に利用できる通信網を持っている私達は、時間とお金を大幅に節約することができているわけで、とてもありがたい公共資産といえるでしょう。

金の切れ目が縁の切れ目

金の切れ目が縁の切れ目といいますが、浅野家で高禄を食んでいたはずの元重臣たちはどこへ行ってしまったのでしょうか?

討ち入りに参加した面々の大半は元下級武士で、当然お金はありません。彼らの生活補助のための出費がかさみましたが、これは浪士たちを討ち入りまで持ちこたえさせるための必要経費といえます。

現在でも富裕層はどこででも暮らせますが、そうでない人たちは今暮らしているコミュニティから離れることは難しいようです。

蓄えた財力と人脈によってすぐに新天地を見つけることができた当時の重臣たちも、さっさと浅野家に見切りをつけたのではないかと思われます。一方、財力も人脈もない下級武士たちにはどこへも行くことができず、討ち入りで最後の花を咲かそうと決めたのでは?

ひょっとすると忠臣蔵は、元禄版のグローバリズムとナショナリズムの対比を描いたものなのかもしれません。

「忠臣蔵」の魅力は現代も色褪せない

討ち入り装束

中年サラリーマンの涙を誘う「忠臣蔵」

満員御礼の「仮名手本忠臣蔵」公演でしたが、普段と比べると中年男性が多く観に来られていたようです。この年代には良き時代の日本型経営に対する郷愁がまだあり、組織への帰属意識を強く持っているというサラリーマンが生き残っています。

組織に殉ずる話ともいえる「仮名手本忠臣蔵」は、古いタイプのサラリーマンの涙を誘うものなのかもしれません。なお、11月公演では残りの八段目からラストの十一段目までが上演されます。

今日のボタモチ

今日のボタモチは【お金】です。

お金で買えないものもありますが、お金で買えるものはたくさんあります。下がり続ける庶民の生涯賃金、購入できるアクティビティは減る一方で、実に悩ましい問題なのですが…。

※今日はボタモチ、1個追加!

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