人形浄瑠璃三大名作のひとつ「仮名手本忠臣蔵」が、大阪の文楽劇場で3公演に分けて全段上演されます。
映画やドラマでは討ち入りがクローズアップされていますが、文楽では討ち入りまでの経緯がメインで、4月公演は刃傷沙汰勃発までの詳細と城の明け渡しまでが描かれていました。今回は四段目までのストーリーと、実際に鑑賞しての感想についてです。
文楽劇場35周年記念で「忠臣蔵」を全段上演
「仮名手本忠臣蔵」の全段上演はマレ
「仮名手本忠臣蔵」は、元禄時代に実際にあった赤穂浪士の仇討ち(赤穂事件)の47年後に作られたお話です。当時は時事問題をそのまま語ると罪に問われていたため、室町時代に舞台を移して描かれています。
ストーリーは大序から十一段目までの長丁場ですが、昔は1日掛けて通しで上演されていました。とはいえ、実際には適度に端折っていたようで、本当にすべての場面を鑑賞できることは少なかったようです。
今年は国立文楽劇場の開場35周年記念ということで、4月・夏休み(7~8月)・11月の3分割ではありますが、人形浄瑠璃三代名作のひとつである「仮名手本忠臣蔵」の全段を観ることができるのです。
ちなみに残りの2つは「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」で、「菅原伝授手習鑑」は6月に上演されます。
大石神社の絵馬やお楽しみプレゼントも
今回「仮名手本忠臣蔵」が公演されるとあって、元ネタとなった赤穂浪士たちが祀られている大石神社の、山鹿流陣太鼓をかたどった絵馬(税込み300円)が特別販売されていました。
会場に用意された絵馬掛け台に掛けた絵馬は公演終了後に大石神社へ奉納されます。価格は300円(税込)です。また3公演全ての鑑賞チケットと引き換えに、手拭いがプレゼントされます。
大序から四段目のストーリー
いきなりパワハラ・セクハラの嵐が
赤穂事件で浅野内匠頭が吉良上野介に殿中で刃傷に及んだ理由は、吉良上野介の嫌がらせにキレたからというのが定説ですが、「仮名手本忠臣蔵」では嫌がらせを受けるハメになった理由はワイロを拒否したからだけではありません。
「仮名手本忠臣蔵」では浅野内匠頭が塩谷判官、吉良上野介が高師直に置き換えられていて、高師直が塩谷判官の奥さん(顔世御前)に横恋慕して振られたことが、嫌がらせの大きな動機です。
権力をカサにしつこく顔世御前に言い寄る様子はパワハラ・セクハラそのもので、こんなヤツのために人生を狂わされることになる塩谷判官夫婦および関係者に対し、同情を禁じえませんでした。
地獄の沙汰も金次第
最初に高師直に対してキレていたのは、セクハラを咎めたために罵詈雑言を浴びせられた桃井若狭助で、明日、高師直を斬ると息巻いていました。
つまり、本来なら切腹するハメになるのは桃井若狭助だったのですが、家老の加古川本蔵の機転(高師直へのワイロ)でスルーできたのです。
間の悪さと失恋のとばっちりで命取りに
気の毒なめぐり合わせになったのが塩谷判官。ワイロをもらったため桃井若狭助の下手に出ることになったところに、顔世御前のつれない手紙を塩谷判官から受け取ったことで、すっかり機嫌を損ねた高師直から執拗にいじめられてしまいます。
結果、高師直に斬り掛かり、切腹するハメになってしまうのですが、顔世御前の手紙が最悪のタイミングで高師直に渡ったのは、おかるという腰元の前のめりな行動が原因でした。
桃井若狭助と塩谷判官の明暗を分けたのは、家臣の危機管理能力だったようで、本人の預かり知らぬところで運命の歯車は回っているという、人の世の無情さに涙が出そうになりました。
短いけれど胸に迫る城明け渡しの段
四段目ラスト。語りは最後の最後に「はったと睨んで」の一言だけという静かな段でしたが、城を去る大星由良之助が形見となった塩谷判官切腹の刀を見つめる場面は、無念さがひしひしと伝わってくるようでした。
文楽の楽しみ方はいろいろ
人形が演じるドロドロ話の不思議な距離感
文楽は一種の人形劇です。人形の動きはまるで生きているようにも見え、人間以上に情感に溢れたものですが、ストーリーがドロドロでもさほど生々しさは感じられません。この不思議な距離感は、舟で川を下っていきながら景色を眺めるような感覚といえばよいのでしょうか。
文楽の楽しみ方は人それぞれで、筆者は人形を見るだけで精一杯ですが、太夫の語りや三味線が好きという方や、人形遣いの◯◯さんが気になるという方もおられるようです。
昔の庶民の娯楽はかなり贅沢
文楽はもともと庶民の娯楽で、気軽に鑑賞できるものでした。けれども人形の精巧さや演者の技術などはまさに芸術で、時間とお金の掛かった贅沢なものです。
正直「元が取れていたのだろうか」と思いますが、今日まで存続できたのは、文楽を残そうと尽力された方々や文楽を愛する方々のお陰でしょう。
忠臣蔵の全編を鑑賞できるチャンスをお見逃しなく
売店でお弁当も買える
「仮名手本忠臣蔵」の公演は11時~15時ですが、お弁当を食べてゆっくりする時間もあります。今回は小さな押し寿司が市松模様に並んだ「文らく浪花寿司(税込み900円)」を、売店で購入していただきました。
夏休み公演(7月20日~8月5日)では五段目から七段目までが上演されますが、浮世絵でもよく描かれている美形カップル「おかる勘平」のお話がメインとなっています。
今日のボタモチ
今日のボタモチは【普遍】です。
「仮名手本忠臣蔵」の初演は寛延元年(1748年)ということで、271年前の人々と同じ演目を見ているわけです。この間に時代は大きく変わりましたが、人間はあまり変わっていないのかもしれません。
※今日はボタモチ、1個追加!
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